「誰かいるの?」 船の中が騒がしかったので様子を見に行くと、緑色の髪をした巫女っぽい格好の女の子がいました。彼女は私を見て、「あ、いた」とちょっとわけのわからないことを言いました。ああ、不審者だな、と思いました。 「あの、どちら様?」 ちょっとこんなに堂々とした不審者は怖かったので、とりあえず名前を聞いてみました。 「妖怪退治にきました♪ 東風谷早苗というものです。……あ!」 突然大きい声を上げるので、私はびっくりしました。珍しいものを見るように、私の体を眺めてます。妖怪退治って言われても今更恐怖など感じませんが、その視線にはなんだか鳥肌が立ちました。 「セーラー服だ!」 「は?」 思わず聞き返してしまいました。この人は恐らく人間なのでしょうが、少しばかり頭の弱い人なのかな、と思いました。 「ああ、ついにセーラー服も幻想の中へと……もう外の世界はブレザーに支配されてしまったのですね……」 ぶつぶつと独り言が続いたかと思うと、何かを吹っ切ったように私を見て、どこか光のない目で言いました。 「はぁ……仕方ありませんね。セーラー服の妖怪といえど、妖怪は妖怪。せめて私の手で葬って差し上げます!」 なんだか一人で盛り上がっちゃってますが、この人はちゃんと私を見ているのかわかりません。そもそもセーラー服の妖怪ってなんでしょう。この人にはセーラー服がふわふわ浮いてしゃべっているように見えるのでしょうか。 「あのー、すみませんが、私はセーラー服の妖怪ではありませんよ。使われなくなったセーラー服が化けて出たとかじゃないんですよ」 「ええ!? 違うんですか?」 私としては一応「そんなこと思ってるわけないじゃないですか」という返事を期待したのですが、この人には無意味だったようです。 「あの、じゃああなたはなんの妖怪なんですか?」 一応妖怪であることはわかってくれていたようで、私は少し安心しました。 「私は村紗水蜜。この聖輦船の船長ですわ」 「やだ、水蜜だなんて……あなたそっち系の妖怪なんですか?」 気持ち悪いと思いました。心底気持ち悪いと思いました。人の話を全然聞いてません。顔を真っ赤にして、頬に手を当てています。失礼ですこの人。 「あ、じゃああれですか。その柄杓はあなたの蜜を集めるための物なんですか。あなたの蜜は人に幸福を与えるとか、そんな感じの妖怪さんなんですか」 頭沸いてるなぁと思いました。もしくはフットーしてるなぁと思いました。 「違いますよ、私は船を沈める妖怪です。そもそもこの柄杓には何もはいってな」 「何も履いてないんですか!?」 もうだめだこいつ早くなんとかしないと。いやもう私から手を出したくありません。なんだかさっさと飽きてどっか行ってくれないかなぁと思っていました。 「あぁ、いきなり突飛なことを聞いてすみません。では真面目な質問をしますよ」 「はぁ」 「あの、それってキュロットなんですか。それともスカートですか」 真面目な質問という言葉に期待した私が馬鹿でした。もう答える気すら起きません。私が可哀想なものを見る目で見ていると、勝手に話し始めました。 「わかりました。恥ずかしいなら答えなくても結構です」 私がいつ恥ずかしそうな素振りを見せたのか、全くわかりません。私だって妖怪とはいえ女の子ですので、ちょっともじもじした仕草くらいできます。こいつはあれですか、可哀想な目で見ることが、恥ずかしさを表す行為だと認識してるんですか。 「私自身はセーラー服はキュロットの方が可愛いと思ってるんですけども。あなたのはどっちなのかなーと思いまして。ちょっとここ暗いんで見えにくいんですよ。言うのが恥ずかしいなら脱いでこっちに投げてくれても構いません。気になっちゃうんです」 知らんわ。なんでこいつの中では服の種類を話すことより、服を脱ぐ方が恥ずかしくないみたいになっているんでしょうか。もうこいつの話すこと一切に、反応したくありませんでした。 「え、イヤです」 「そうですか、残念です。」 やっと引き下がるのかな、と思っていたら、とんでもない言葉が飛び出しました。 「ならあなたを倒してこの目で確かめるまでです! 覚悟しなさい、セーラー服の妖怪!」 こいつ絶対人の話を聞いてません。ついでに変態です。もうどうしよう。 「あなたみたいなそっち系の変態妖怪は、二度と立ち上がれないようにしてあげます!」 え、こいつの中では私が変態なの? 私そんな変態発言したっけ? 「キュロットだったら剥いで持って帰ってやりますわ。ついでに色々と搾り取ってやりますわ」 身のキケーン。なんだか向こうは怒ってます。なるだけ関わりたくはありませんが、このまま無抵抗なら身ぐるみ剥がされた挙句に何かを搾り取られてポイされます。それはイヤです。とりあえずもう撃たれてます。服破けます。痛い。やめて。 ――転覆「道連れアンカー」! 使ったはいいのですが、実際問題こんな奴と道連れになるのはごめんです。一人で死ねばいいと思います。私の気持ちを体言するがごとく、アンカーは奴に向かって飛んでいきました。潰れてください、一生のお願いです。 「破ァ!」 なんということでしょう、受け止められました。奇跡もここまでくれば大したもんです。もしかしたら、こいつは地面を殴って地震を止められる人間なんじゃないでしょうか。奇跡ってレベルじゃないぞ。 「っせええええいやああああああ!」 人間にー、錨をー、掴まれてー、回されてー、飛んだぁー! ドン、と大きな音と共に、私は船の壁へと叩きつけられました。幽霊のままだったら痛くなかったかもしれませんが、今の私は妖怪です。とっても痛いです。 「ふふふ……」 体が動きません。変態は目の前です。鼻息が荒いです。怖いです。手が伸びてきます。私の服を毟り取る気に違いありません。どうしよう。泣きそう。 私は、スペルを一枚取り出しました。これに賭けるしかありません。 「し、し、し……」 「しーしー? ついに水蜜?」 「黙りなさいよ!」 最近の人間は未来に生きてんなと思いました。 「シンカーゴースト!」 変態の手が私を捕らえようとしたその時、私はスペルで幽体となり、命からがら逃げ出しました。本来耐久スペルですが、仕方ありません。幽体のまま分離と合体を繰り返し、弾をばら撒きながら逃げ続けます。みんなごめんなさい、私はもうダメです。相手が悪かったのです。変態は嫌いです。清廉なる水の乙女なのです、私は。 「はぁっはぁっ。ここまで来れば……」 ちょうどスペルが切れる頃、私は貨物室に逃げ込んでいました。追ってきている気配はありません。私は胸を撫で下ろしました。 バキッ 「なんだ、ちゃんと履いてるじゃないですか」 木造の床を突き破って、何かが、何かが私のスカートを掴んでいました。私が覚えているのはここまでです。気づけば全裸で泡を吹いていました。 数日後、山の上の巫女がセーラー服を着るようになったと、風の噂で聞きました。
後書き 私もキュロットの方がかわいいと思います!! |