ギャラクティックロマンス





「明日の十四時、ココへ来てね」
 彼女がそう言って渡したのは、一枚のフライヤー。はて、何かしでかしただろうか。勝手に冷蔵庫のプリンを食べたのがバレたのか、それともレポートを無断で書き写したのがいけなかったのか。山ほどある心当たりを探りながら、地図に書かれた場所へと足を運ぶ。そこにあった何かの店らしい扉を開けると、やたらに騒がしい音楽が耳を貫いた。
「あら蓮子、やっと来たのね」
 目を焼くほど光を放つミラーボール、激しく胸を打つサウンド、容赦なく迫り来る圧迫感。客は浴びるほどに酒をあおり、狂ったように踊って短い命を減らしていく。
そう、目に映るのはクラブハウス。歌うも踊るも自分の自由。音楽に憑り付かれた者達の楽園だ。
私はカウンターに座るメリーを見つけると、かいくぐる様に人の波を抜けて彼女の隣に腰掛ける。
「ねぇメリー、私達は秘封倶楽部よ。クラブじゃないわ」
「わかってるわよ。ただ、たまにはこういう息抜きも必要じゃない? ってわけ」
 私はチラリとホールを見る。DJとオーディエンス、全てが一体となった空間は、色彩と平衡感覚を混ぜ合わせていく。その全てが混ざったモノは空間全体に広がって、全員がそれに酔いしれている。もちろん私の体にも入り込み、意思に逆らい勝手に動き出す。この空間にいる者は、もう全員戻れない。ステップを踏み、腕を振り上げ、華麗かつ泥臭く舞うことを、私の中の全てが渇望する。それをさせるのは……
「幻聴?」
「いいえ、幻想よ」
 彼女はグラスを傾けながら言う。集団感染とも言うべきこの空間の中で、彼女だけが異彩を放つ。
余裕に満ちたその表情とは違い、私は頬に流れた汗を拭った。無理をして嘲るように笑い、震える声を搾り出した。
「いかにも前時代的だわ。わざわざ集まって、わざわざ疲れることをして。それでその向こうに何が見えるっていうのかしらね」
「あら、こういうのは嫌い?」
「別に」
 私はするりと椅子から降りる。いや、光が、音が、熱気が、私を降りさせただけだ。
「たまにはバカになるのもいいかもね」
 ねぇ、そこのあなた。私と一緒に踊らない?
















 

あとがき



 短いとはいえ、書いたものは書いたのでという弁明の元に。
 クラブイベントのチラシを作るということで、秘封倶楽部好きの私のところにお鉢が回ってきたようです。
 東京カノンの原稿を仕上げてすぐ、一時間ぐらいで書いた記憶があります。
 この頃よりは、ちょっと成長してるといいなぁ。


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